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加速する広告のデジタルシフト ~宣伝/販促のデジタルシフトと小売業界DXの新潮流~


スピーカー:
株式会社電通デジタル 統合デジタルマーケティング部門 部門長
永山 悟氏

株式会社アドインテ デジタルトランスフォーメーション Div 取締役副社長兼COO
稲森 学氏

モデレーター:
楽天グループ株式会社 執行役員
アド&マーケティングカンパニー
紺野 俊介

 

 


登壇風景

 

紺野:今回は、電通デジタルの永山さんとアドインテの稲森さんをお迎えして、宣伝/販促、そしてDXをテーマにパネルディスカッションを行います。

早速永山さんに伺いたいのですが、電通ではDX をどのように進めていますか。

永山氏:電通グループでは、やはりCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客視点の体験)ありきで、お客様との接点で体験をどう変えていくかに注力したDX推進が特徴的だと思います。また、グループ会社のトップ陣も含め、お客様や企業にとってのDXがどう変わっていくのか勉強し直しつつ進めているところです。

紺野:リテールテック(小売事業にITやIoTのデジタル技術を導入すること)は現在、非常に注目を浴びている領域です。このコロナ禍でリテールテックがより加速した部分と思うように進まない部分の両側面があると思いますが、稲森さんはこれに関してどうお考えですか。

稲森氏:小売の中でも業種業態によっては一気に進んだところもあれば、逆にプロジェクトが止まってしまったところもあります。DXの推進は重要だとは思いつつも、中々進んでいなかったDXプロジェクトを、コロナ禍になり、一気に推進するきっけかになったと思います。

 

 

DXという言葉の登場と普及

紺野:DXという言葉が初めて登場したのは2004年と言われています。スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が論文内で「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と言及されました。

当時、デジタルという言葉は「インターネット」や「ウェブ」という言葉に置き換えられていて、2010年あたりから「デジタルマーケティング」と呼ばれるようになるまで「インターネットマーケティング」「ウェブマーケティング」と呼ばれていました。そして2010年の後半頃から日本の多くの企業でDX促進の組織が作られ、様々なセミナーや著作でDXという言葉を見るようになりました。

 

DX化する社会

 

ユーザーがDXを感じるようになったのはここ最近だと認識しています。楽天でもデジタルフライヤーやデジタルクーポン、キャッシュレス化などさまざまな形でユーザーDXを進めてきました。また、様々なステークホルダーやパートナー様、企業様とお仕事させていただく中で、ユーザーに対する適切な説明と利用目的の明示をした上で、ユーザーの消費行動を分析しCRMに活用させていただいています。

ここからは、広告代理店・リテールテックそれぞれの立場でDXにどう取り組まれているかについてゲストのお二人にお話を伺っていきます。

 

 

「アドレサブル」という考え方(電通・永山氏)

永山氏:今、デジタルや広告の世界でコミュニケーション設計の仕方が変わってきたと感じています。15年前はスタークリエイターがいて、マス広告を起点に仮説を立てコミュニケーションを作っていくのが主流でしたが、現在は起点がお客様の購買データに変化しています。

 

購買データを活用したコミュニケーション

 

その中で、データを集めること=DXとお考えのクライアントもいらっしゃいますが、データを集めて保持するためには大きな投資が必要になってしまいます。しかし、経済圏のデータを使えば、データを保持しながら使える形にして成果を出していくことが可能です。例えば楽天が蓄積しているデータを活用することによってターゲティングの分析から広告配信、店頭での誘導トライアルキャンペーン、コマースへの誘導、さらにファン育成まで横軸で一気通貫にできる状態となっています。

紺野:電通としてはどういう風に、小売業界のクライアントの要望に応えられるような知見を蓄えておられますか。

永山氏:クライアントの内部に入っていくケースが増えたと感じています。これまではクライアントからのオリエンを受けて提案をするという進め方だったのですが、今は「DX推進室はできたがまだ目標が決まってない」「何をしていいかわからない」というクライアントも多いので、そこに入り込んで一緒に進めていくことが増えました。

 

「アドレサブル」という考え方

 

また、先ほどの経済圏データの使い方の話ですが、PoC(Proof Of Concept:概念実証)で終わることが多く、非常にもったいないと思っています。この手のデータは何度もあの手この手を使い、初めて「使える」ようになるからです。

そこで、アドレサブルという言葉で表している通り「特定できているかどうか」が極めて重要です。特定できているお客様の購買行動を理解し、継続性や施策の効率を合わせていくことが今後ますます必要になってくると認識しています。

 

 

事例:流通小売業のリテールメディア(アドインテ・稲森氏)

紺野:アドインテはリテールテックにおいて最も注目を浴びている会社の一つですが、事業体含め今後の展開についてお話をお聞かせください。

稲森氏:アドインテはリテールテックベンチャーとして、ビーコンやAIカメラ、NFC(近距離無線通信)を使って大手小売企業と連携しています。今、特に力を入れているのがリテールメディアという事業で、よくメディア等に取り上げられているのは米国のクローガーとウォルマートが広告業界に参入したという内容になります。

 

米国のリテールメディア成功モデル

 

リテールメディアと一口に言っても収益モデルがそれぞれ少し異なります。クローガーはCRM機能を元にインストアのメディアに配信するという仕組みで収益化をしているモデルです。ウォルマートのモデルでは、オンラインとオフラインのタッチポイントをSSPとして束ねて一括運用できる仕組みを持っておりこちらも大きな収益を上げています。

紺野:アドインテは多くの小売企業にサービスを提供しておられますが、事例も含めて教えてください。

稲森氏:現在、アドインテはリテールメディアという領域で40社以上と協業していますが、多くお問い合わせをいただく事例が株式会社ツルハホールディングスの事例です。

基本的には前述のクローガーモデルに近いですが、ID-POSデータを活用しながら、オンライン・オフラインのタッチポイント含めた会員データをCDPで分析するデータ基盤を作り、それを元にSNSなどの外部のメディアに配信する仕組みとなります。

 

ケーススタディ1(株式会社ツルハホールディングス様)

 

紺野:導入に踏み切るに至るポイントはどのようなものでしたか。

稲森氏:DX推進はトップの意思決定が全てだと想定しています。ツルハの場合、様々なメリット・デメリットがある中でメリットをしっかり見ていただいた上で、且つデメリットもあることも踏まえて、経営陣の皆様にご決断いただいたことが大きかったと考えています。

紺野:クライアントの期待値に対するコントロールや満足度はどうご反応いただきましたか。

稲森氏:難しいと感じた点は、クライアント企業のシステム部署・営業部署・広報・マーケティング部署・商品部とそれぞれ見ている指標が異なり、どこに納得いただけるものにするのか現在も試行錯誤している状態です。リテールメディアでは顧客の購買行動変化まで1IDずつ分析可能なので、その点はどの部署の方にも評価していただいています。

 

これからの小売業界DX

紺野:小売業界のDXにおける現在の課題と、今後そこに対してどうアプローチされるのかについてお聞かせください。

稲森氏:本来DXは部署を横断して推進するべきなので、縦割り組織でDX推進部が一つの部署のようになっていると、やはり部分最適になってしまい、進めづらい部分があります。そこで、DXをどこから始めるべきかという優先順位も含めて、引き続き経営層の方達とより深く対話していきたいと考えています。

 

セッション風景

 

紺野:永山さんは、電通と楽天だからできる小売業界のDXに関してどのようにお考えでしょうか。

永山氏:データというのは楽天でも小売企業のものではなく、あくまでお客様のものであって、お客様から期待を込めてお預かりしているデータをお客様に良い体験としてお返ししなければならないと認識しています。我々電通でいうとコミュニケーションをやってきた自負もありますので、その体験設計をお客様に戻していくことがDXにとって大事だと捉えています。

「楽天エコシステム(経済圏)」を例に挙げると、楽天会員の帰属意識の高さは大きな武器ではないでしょうか。この武器をうまく使いながらお客様にとって良い体験を作っていくことが、まさに電通と楽天が協業できる部分だと考えています。

紺野:稲森さんは小売業界のDXを進めていく中で今後どのようなことにチャレンジされたいですか。

稲森氏:今取り組んでいるリテールメディアはまだ始まりにすぎず、小売企業が持っているオンライン・オフラインのタッチポイントの広告メニュー化をもっと進めたいと考えています。また今後は、広告とは違う活用、例えば廃棄ロスやフードロスなどに関して小売企業から依頼をいただくようになってきたので、そういう分野には早々にチャレンジしていきたいと思います。

紺野:電通としてはこれからの小売業界に何を期待し、逆に何を彼らに提供していけるとお考えでしょうか。

永山氏:小売業界ではすでに独自にデータ活用するケースが増加しています。それを検証だけで終わらせるのではなく、これまでの知見を活かしたクリエイティブやCX設計という電通の価値を提供していきたいと考えています。

 

セッション風景

 

 

セッションまとめ

紺野:引き続き楽天の広告ビジネスは販促領域にも携わっていきますので、電通との取り組みも増えますし、アドインテとは様々な場所で必ず交差するのでいろんな形の協業があると思います。

私たちは、DX推進は世の中のトレンドであると共に、ユーザーに還元できる大きな領域だと捉えています。

ここまで駆け足にはなりましたが、皆様と一緒にこれから新しい産業を作っていけるという可能性を感じたディスカッションでした。

 

紺野 俊介
紺野 俊介Konno Shunsuke
楽天グループ株式会社 執行役員 アド&マーケティングカンパニー


1975年、千葉県生まれ。横浜市立大学卒業後、EDS Japan(現日本ヒューレット・パッカード)を経て、2003年に株式会社アイレップに入社。デジタルマーケティング事業を牽引し、2006年には大阪証券取引所ヘラクレス(現 大阪証券取引所JASDAQ)への上場に成功。同年取締役に就任。2009年からは10年間代表取締役社長を務め、アイレップを運用型広告でトップクラスの企業へと導く。書籍・コラム執筆や、セミナー講演も多数。2018年7月、楽天株式会社(現楽天グループ株式会社)入社、同年8月より現職。